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私達の体の中では、毎日3000個ほどの異常な細胞(がん細胞)が生じていると考えられています。 通常、体内の免疫システムによりがんの発症は抑えられています。 しかし、免疫チェックポイント分子による免疫抑制を利用して、この免疫システムから逃避すると、異常細胞は増殖し、がんとして診断されます。

当センターの本庶佑センター長は、免疫チェックポイント分子による免疫抑制メカニズムの解明と免疫抑制解除による免疫療法を開発した功績により、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。 PD-1(Programmed cell death-1)は、この免疫抑制メカニズムの鍵となる代表的な免疫チェックポイント分子として発見され、活性化したキラーT細胞に多く発現しています。 一方、がん細胞ではPD-1のリガンドであるPD-L1が多く発現しており、PD-1とPD-L1が結合することで、がん細胞の除去に必要なキラーT細胞の活性化にブレーキがかかります(図)。 PD-1やPD-L1に対する抗体は、これらの分子に特異的に結合することにより、PD-1とPD-L1の相互作用を阻害します。 その結果、キラーT細胞へのブレーキが解除され、再活性化することによりがん細胞を攻撃する能力が回復します。

■ PD-1/PD-L1経路を介した阻害抗体による免疫治療

この方法は、がん細胞を狙い撃ちにする従来のがん治療法とは異なり、免疫細胞を標的にした新しいがん治療法です。 さらにこの治療法は、進行したがんであっても劇的に治療効果を発揮することが明らかになっています。 そのため、PD-1やPD-L1を標的とした免疫システムの制御は、新たながん免疫治療として注目されており、体内の免疫システムを活性化することで様々な種類のがんを治療するために使用されています。

しかしながら、PD-1/PD-L1阻害をはじめとする免疫チェックポイント阻害剤の効果は、全ての患者さんに現れるのではなく、2〜3割程度の患者さんに限られています。 また、免疫チェックポイント阻害治療による自己免疫疾患様の有害事象が報告されており、免疫システムのブレーキを解除したことによる過剰な免疫反応が関係すると考えられています(免疫関連有害事象)。

当センターでは、免疫チェックポイント阻害による治療効果や免疫関連有害事象を予測するためのバイオマーカー、免疫治療の効果を増強させる物質の探索に関係する研究を行い、がん治療のさらなる発展を目指しています。