CCII 京都大学大学院医学研究科附属 がん免疫総合研究センター

突然変異の解明から25年を記念して

 

CCII 副センター長の Sidonia Fagarasan教授、村松正道(FBRI・感染症制御研究部 部長)らは、国際科学誌 Cell に「Activation-induced cytidine deaminase: The missing piece of many puzzles(活性化誘導シチジンデアミナーゼ:多くの謎を解く最後のピース)」を発表しました。

本総説は、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の機能を実証した最初の画期的な論文から25周年を記念して執筆されました。本稿では、本庶佑教授が1970年代の若きポスドク時代から歩み始めた「免疫グロブリン多様性の分子基盤」を解明するための探求の道のりが語られています。AIDという酵素の発見は、脊椎動物の免疫システムに対する私たちの理解を根本から変えるものでした。

図: AID 発現に関する初期の実験とノックアウトベクター設計
村松の実験ノートより

(A) 1998年7月に記録された、ヒツジ赤血球で免疫したマウスの脾臓切片における、ジゴキシゲニンプローブで標識した AID RNA。
(B) 1999年2月に記録された、マウス AID 遺伝子座の制限酵素マッピング。

AID 発見の最大の成果は、長年謎とされてきた 2 つの複雑な生物学的現象――体細胞超変異(Somatic Hypermutation)とクラススイッチ組換え(Class Switch Recombination)――が、たった 1 つの酵素によって駆動されていることを証明した点にあります。この発見は、両者を分子レベルでは別々の仕組みと考えていた免疫学者たちの常識を根底から覆しました。現在では、AID は獲得免疫を支える中心的な因子であると同時に、強力な DNA 変異誘発活性をもつ酵素としても知られています。この性質は、特にリンパ腫をはじめとするがん発生のメカニズムと深く関わることが明らかになっています。

本論文では、ヒト研究とモデル生物研究の双方がいかに重要であるかについても詳しく紹介しています。かつて本庶研究室でクローニングされた AID 遺伝子の役割は、マウスを用いた精密なメカニズム解析に加え、パリのネッカー病院において Anne Durandy、Alain Fischer らのグループが報告したまれな免疫不全症の患者の詳細な解析を組み合わせることで明らかになりました。

CCIIセンター長の本庶佑教授の研究室では、がんや自己免疫疾患といった難治性疾患の克服を目指し、研究が精力的に進められています。AID 活性がもつ“諸刃の剣”としての側面を制御する仕組み、そしてその破綻によって生じる疾患のメカニズムを解明することは、本庶研究室にとって、そして CCII の研究者たちにとっても重要なテーマとなっています。

 本研究成果は、2025年11月26日に、国際学術誌「Cell」にオンライン掲載されました。

 

書誌情報

【 雑 誌 名 】Cell

【論文タイトル】 Activation-induced cytidine deaminase: The missing piece of many puzzles (活性化誘導シチジンデアミナーゼ:多くの謎を解く最後のピース)

【 著  者 】Thiago Carvalho, Sidonia Fagarasan, 村松 正道

【 掲 載 日 】2025年11月26日(オンライン)

【DOI】https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.10.031

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